天井クレーン (Overhead Crane)            HOME 技術資料室  技術用語
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 天井クレーンとは建屋の両側の壁に沿って設けられたランウェイ(軌道)上を走行するクレーンで、ちょうど建屋の天井をクレーンが走るようになるのでこの名があります。
 クレーンガーダー(桁)上を荷を吊ったトロリが移動(横行)し、ガーダーは工場建屋に固定された軌道(ランウェイ)上を走行します。
 トロリの構造によりクラブトロリ及びトロリと運転室を一体にしたマントロリなどがあります。
  

 マントロリは右図のようにキャビンがトロリーと一体でトラバースするタイプで、スパンが長いクレーンの場合はコイルに近づくことができるため、確実にコイルを掴むことができます。
1.クレーンの負荷による分類
 クレーンはそれが受ける荷重と頻度によって下表のように分類されます。一般的にコイルセンターや鉄鋼流通倉庫などでは ISO の M6 または M7 程度が採用されているようです。
    
又、各国や団体で色々な分類があり、それらの間の対応は下表の様になっています。
     

2.クラブトロリ式天井クレーン
 最も普通に使用されている天井クレーンで、巻上げおよび横行装置を備えたクラブが、クレーンガーダー上を横行する形式のもので、巻上げ、横行、走行の運動をします。フックには外れ止を付けることが義務付けられています。

3.巻上装置
 巻上用モーター、巻上用ワイヤーを巻き取るドラム、減速装置、制動用ブレーキなどで構成されます。
 吊荷の停止や保持には制動用ブレーキが使われます。吊具が巻上の上限にきた時に自動的にモーターの電源を切り、ブレーキを作動させて巻上を停止させる巻過防止装置(リミットスイッチ)が設けられています。

4.横行装置
 トロリを横行させる装置で、モーターの回転を減速装置で減速して横行車輪を回転させてトロリを横行させます。横行装置には通常電磁ブレーキ又は電動油圧押上式ブレーキがでつきますが、低速のものではブレーキがついていないものもあります。


5.走行装置
 クレーン全体を走行させる装置で、駆動モーターが1基のものから2基及び4基のものまであり、天井クレーンには2基のものが一般的です。電磁ブレーキ又は電動油圧押上式ブレーキが使われていますが、一部低速のものにはブレーキのついていない場合があります。
      (1 モーター式)                   (2 モーター式)

      
 

6.走行用レール
 下図に示すように建家の梁にクレーンレールをボルトで固定しますが、長年経つと建家が変形してレールの直線性が損なわれ、クレーンが異音を発するようになったり、動けなくなったりした場合に、レールを修正できるようにしておく必要があります。走行レールの据え付け精度は右図に示すような決まりがあります。
 尚、建設時のコスト節約ためにレールまたは角材を建屋に直接溶接する場合がありますが、建屋は将来変形する可能性があり、又建屋の基礎も動く可能性があるので、溶接構造は避けるべきです。

 
 

7.クレーンガーダー(桁)
 横行するクラブトロリの荷重を受ける構造物で、スパンが広いほど強度及び剛性が必要となりますが、建屋の強度から自重も自ずから制限があるため、断面形状も色々あり、設計上の重要なポイントです。

8.サドル
 ガーダの受ける荷重を支えてクレーンをランウェイ上を走行させる、車輪付の台車です。

天井クレーンの上架> (Installation of Overhead Crane)
 通常、屋根を敷設する前に、ラフテレーンクレーン(ラフターRough Terrain Crane)で吊り上げますが、建屋との関係から若干のバリエーションがあります。
映像例    を参照してください。


9.クレーンの速度制御
 従来、DCモータや巻線型モータを用いた二次抵抗制御、一次電圧制御、ダイナミック制御などが使われておりましたが、新しいニーズにふさわしい方式として、かご型モータのAVAF(インバータ) による速度制御が採用されるようになってきました。
(インバーター制御の特長)
*電力損失を低減。省エネルギー化が図れます。
 始動電流の減少により、電力損失が低減。二次抵抗損失がなくなりますので省エネルギーです。
*幅広い速度制御範囲。制御の効率性を高めています。
 速度制御範囲は、ベクトル制御では1:20、V/F制御では1:10の低速から2倍の高速まで幅広く制御。モータ制御の効率性を高めています。
*高度な自動化が可能。作業の省力化を実現します。
 速度制御が容易なため、シーケンサ、マイコンを使用して、高度な自動化が可能。作業の省力化・高能率化を実現します。
*加減速制御を採用。操作性が向上しています。
 加減速の制御により、始動・停止によるショックが軽減され、荷崩れの不安を解消。さらに低速運転が可能で、インチングによる位置決めが不要となります。
*かご形モータはシンプル構造。保守点検が容易です。
 電動機が籠形のため、スプリング、カーボンブラシが不要。磨耗部品がなくなり清掃がいりません。また、停止用ブレーキは、電気的に減速制御したのちに作動させますので、ライニングの磨耗が低減されます。
*始動・停止はとてもスムーズ。安全性を高めています。
加減速がスムーズなクッション始動・停止を行なえるので、機械への衝撃も少なく、安全性を高めています。また、ブレーキライニングの寿命が大幅にアップします。

10.天井クレーンの定格速度
 下表はJIS B 8810に決められた天井クレーンの定格速度です。クレーン構造規格第33条では、床上運転のクレーンの場合の走行及び横行速度は63 mpm(3.8 km/時)以下に決められています。
   

11.ブレーキ
 一般的に横行・走行・巻上用のモーター軸に直結して取り付けたれており、ドラムにシューを押し付けて制動する構造が広く使われています。ドラムにシューを押し付ける力を電磁石で得る電磁ブレーキ方式と油圧で得る油圧ブレーキ方式が一般的です。
 電磁ブレーキ方式はモーターに電流が流れて運転モードになると、電磁石に通電してバネの力に逆らって制動を開放します。モーターへの通電を止めて回転を止めると、電磁石への通電も同時に止まり、バネの力で再びブレーキシューがドラムを締め付けて回転を止めます。
 油圧押上方式では電磁石の代わりに電動油圧を用いたもので、電動ポンプから発生する油圧力によってバネの力による制動を開放します。電磁方式に比べて青銅に要する時間が長い反面、音が静かで制動時の衝撃が少ないため、横行及び走行の停止に広く使われています。
 (電磁方式)                   (油圧方式)
       

12.建屋及びクレーンの揚程と耐荷重
 クレーンの耐荷重は最大製品重量と吊具重量の合計、建屋はこれにさらにクレーンの自重を加えて設計する必要があります。
 又、建屋の高さは積荷及び設備の最高高さの上を、荷物を吊り下げたクレーンが越えられるだけの高さ(揚程)が必要です。特に原コイルヤードの場合、吊具の種類によって高さが異なるため、建屋の設計時に吊具の種類と概略高さを決めておく必要があります。

クレーンの最大吊り荷重≧最大吊り荷重量+吊具重量

13.クレーン稼働率の推定例
 コイルセンターでは一般的に母材コイルヤードのクレーンの稼働率が最も高くなります。このクレーンの 1 コイルを処理するに必要な動作回数は 3 段積の場合下表のようになります。

No. 動作単位
1 荷卸し→仮置き場(コイル情報のインプット) 1 1
2 仮置き場→在庫ヤードへの入庫 1 1
3 在庫ヤード上部コイルの
仮置き場への一時退避
最下段コイル 5 5
中段コイル 2 2
最上段コイル 0 0
平均 2.3 2.3
4 在庫ヤード→開梱場 1 1
5 一時退避コイルの仮置き場→ヤードへの戻し 最下段コイル 5 5
中段コイル 2 2
最上段コイル 0 0
平均 2.3 2.3
6 開梱場→各ライン 1 1
合 計 回 数  17.3
処理するコイル数により、クレーン1基の場合の稼働率は右グラフのようになります。一般的に地上操作のクレーンの場合は、80% が限界といわれていますので、これを超える場合はキャビンでの機上操作または残業、シフトアップなどの対策が必要になります。
クレーンが2基の場合はクレーン同士の干渉が出てくるので、処理能力は2倍にはならず、干渉率をかける必要があります。

14.クレーンワイヤーロープの寿命(ワイヤーロープ参照)
 クレーンのワイヤーロープは吊り荷重による繰り返し引張応力と、シーブによる繰り返し曲げ応力を受けるので、いずれ疲労破壊します。
下写真のように素線が断線し始めると、交換する必要があります。
 疲労破壊は吊荷重が大きいほど、荷重頻度が多いほど、シーブ径や巻取りドラム径が小さいほど早く進みます。


15.クレーンレール及び車輪の潤滑
 クレーンレール及び車輪のフランジの間には適当な潤滑を施さないとカジリや片減りが生じます。これを防ぐにはフランジ部にのみ固形ワックスを塗布する装置が開発されており、潤滑油を塗布するよりも長時間安定して性能を維持できるようです。

右図はトッキ社製 (tel: 0561-82-7225、URL: http://www.tokki.info)

16.クレーンに関する法律 (クレーン等安全規則
 日本ではクレーンは下記の定期点検が義務付けられています。
名称 実施者 頻度
始業前点検 自主 毎交替
月次点検 自主 毎月
年次点検 自主 毎年
性能検査 労働基準監督署 2年毎

(1)安全に関する抜粋 
第3節 定期自主検査等
第34条 (定期自主検査)
 事業者は、前項ただし書のクレーンについては、その使用を再び開始する際に、自主検査を行なわなければならない。
1) 事業者は、クレーンを設置した後、1年以内ごとに1回、定期に、当該クレーンについて自主検査を行なわなければならない。ただし、1年をこえる期間使用しないクレーンの当該使用しない期間においては、この限りでない。
2) 事業者は、前項ただし書のクレーンについては、その使用を再び開始する際に、自主検査を行なわなければならない。
3) 事業者は、前二項の自主検査においては、荷重試験を行わなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するクレーンについては、この限りでない。
@ 該自主検査を行う日前2月以内に第40条第1項の規定に基づく荷重試験を行つたクレーン又は当該自主検査を行う日後2月以内にクレーン検査証の有効期間が満了するクレーン
A 発電所、変電所等の場所で荷重試験を行うことが著しく困難なところに設置されており、かつ、所轄労働基準監督署長が荷重試験の必要がないと認めたクレーン
4) 前項の荷重試験は、クレーンに定格荷重に相当する荷重の荷をつつて、つり上げ、走行、旋回、トロリの横行等の作動を定格速度により行なうものとする。

第35条 (定期自主検査)点検表
1) 事業者は、クレーンについて、1月以内ごとに1回、定期に、次の事項について自主検査を 行なわなければならない。ただし、1月をこえる期間使用しないクレーンの当該使用しない期間においては、この限りでない。
@ 巻過防止装置その他の安全装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ及びクラツチの異常の有無
A ワイヤロープ及びつりチエーンの損傷の有無
B フツク、グラブバケツト等のつり具の損傷の有無
C 配線、集電装置、配電盤、開閉器及びコントローラーの異常の有無
D ケーブルクレーンにあつては、メインロープ、レールロープ及びガイロープを緊結している部分の異常の有無並びにウインチの据付けの状態
2) 事業者は、前項ただし書のクレーンについては、その使用を再び開始する際に、同項各号に掲げる事項について自主検査を行なわなければならない。

第36条 (作業開始前の点検)
 事業者は、クレーンを用いて作業を行なうときは、その日の作業を開始する前に、次の事項について点検を行なわなければならない。
 1) 巻過防止装置、ブレーキ、クラツチ及びコントローラーの機能
 2) ランウエイの上及びトロリが横行するレールの状態
 3) ワイヤロープが通つている箇所の状態

第20条 (暴風後などの点検)・・・略

第38条 (自主検査等の記録)
 事業者は、この節に定める自主検査及び点検(第36条の点検を除く)の結果を記録し、これを3年間保存しなければならない。

第39条 (補修)
  事業者は、この節に定める自主検査又は点検を行なつた場合において、異常を認めたときは、直ちに補修しなければならない。

第40条(性能検査)
 クレーンに係る法第41条第2項の性能検査(以下「性能検査」という)においては、クレーンの各部分の構造及び機能について点検を行なうほか、荷重試験を行なうものとする。
2.第34条第4項の規定は、前項の荷重試験について準用する。

第41条(性能検査の申請等)
 クレーンに係る性能検査(法第53条の3において準用する法第53条の2第1項の規定により労働基準監督署長が行うものに限る)を受けようとする者は、クレーン性能検査申請書( 様式第11号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

第42条(性能検査を受ける場合の措置)
第7条の規定(同条第一項中安定度試験に関する部分を除く)は、前条のクレーンに係る性能検査を受ける場合について準用する。

第43条(検査証の有効期間の更新)
 登録性能検査機関(法第41条第2項に規定する登録性能検査機関をいう。以下同じ)は、クレーンに係る性能検査に合格したクレーンについて、クレーン検査証の有効期間を更新するものとする。この場合において、性能検査の結果により 2年未満又は2年を超え3年以内の期間を定めて有効期間を更新することができる。

第214条(玉掛け用フツク等の安全係数)
 事業者は、クレーン、移動式クレーン又はデリックの玉掛用具であるフック又はシヤックルの安全係数については、
5以上でなければ使用してはならない。
 前項の安全係数はフック又はシヤックルの切断荷重の値を、それぞれ当該フック又はシヤックルにかかる荷重の最大の値で除した値とする。

第215条(不適格なワイヤロープの使用禁止)
 事業者は、次の各号のいずれかに該当するワイヤロープをクレーン、移動式クレーン又はデリツクの玉掛用具として使用してはならない。
1) ワイヤロープ一よりの間において素線(フイラ線を除く。以下本号において同じ)の数の 10% 以上の素線が切断しているもの
2) 直径の減少が公称径の 7% をこえるもの
3) キンクしたもの
4) 著しい形くずれ又は腐食があるもの

17.クレーンの事故例
(例−1)クレーンガーダーの破損
 クレーンガーダーの突合せ溶接に一部未溶接部があり、そこを起点とした疲労亀裂がウエブまで進んでクレーンを使用不能にした例があります。このクレーンは17年間で153,000回程度繰り返し荷重を受けていました。

(例-2)クレーンフックの破損
 ネジ加工時の粗雑さを起点に疲労がすすんで破損した例があります。
2年間で350,000回程度の繰り返し荷重を受けていました。

(例-3)ネジの脱落による破損
 ネジの脱落を点検で見落としていたためにトロリーがガーダーから落下した例があります。

18.参考資料
 クレーンの安全規則(pdf)
 クレーンワイヤーロープの保守点検基準(pdf)
 ホイストの運転マニュアル(pdf)
 ホイスト式天井クレーンの月例点検表(pdf)
 クレーンの運転資格
 クレーンの構造規格(pdf)
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