吊具の種類と管理           HOME 技術資料室 技術用語
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1.コイル吊具の種類 (設備メーカー参照)
 鉄鋼製品の荷役に使われている吊具は、重量物を頭上高く持ち上げて運ぶためのものであるため、設計・製造の両面からかなり高い信頼性が要求されます。
 一般にコイルセンターで原コイルの荷役に使われている吊具としては下図のようなものがあり、又製品の荷役にはワイヤーロープや繊維スリング等が使われています。
吊具の種類 吊具の構造 長 所 欠 点
Cフック *操作は簡単で操作ミスが起こりにくい
*安価
*アームを挿入するためにコイルの列間隔を2列毎に空ける必要があり、置場のスペース効率が下がる危険がある
*アーム挿入時にコイルに疵を入れる危険がある

*正しく設計・製造されたものを購入しないと疲労破壊の危険がある
電動
リフター
*コイルのグリップセンサーが組み込まれており信頼性が高い
*将来コイル置場のIT化導入が可能となる
*置場効率が高い
*自重が約2トン前後あるため、コイルの最大重量に加算したクレーン及び建屋の耐荷重が必要
*やや高価

天秤&滑車
ハッカー
*安価 *高所のコイルではクレーンの遠隔操作でコイル内径の両側にハッカーのアームを確実に挿入させる必要があり、不完全なグリップはコイルを落下させる危険がある。高度に熟練した操縦技能が必要
*正しく設計・製造されたものを購入しないと疲労破壊の危険がある



1-1.C-フック
*鋼材用の吊具は重い荷重を繰返し吊る度に金属疲労が進んでゆき、使用頻度によって数年から数十年に亘って徐々に強度が低下してゆきます。吊具の強度が荷重による応力を下回った時点で突然破壊して重大事故につながる危険性を持っています。コイルセンターの歴史から見ても、そろそろ危険域に到達するCフックが出始める時期にさしかかってくると思われます。

*これを防ぐには、疲労後でも十分な強度を維持できるような設計と材料選択をする必要がありますが、Cフックのように比較的簡単に製作できるものは、強度の確認がされないまま製作されている例が国内外でかなり多く見られ、非常に危険です。

*吊具の強度はまず構造(形状と寸法)上の強度が充分であることが前提で、本来は設計時点で確認すべきものですが、現在使用中のものでも形状と寸法から診断できます。 (「C-フックの疲労破壊」参照)



*C-フックを購入する場合は、下記項目を確認して、技術力と信頼性のあるメーカーから購入することが大切です。
@ 発生する最大応力を計算してあり、その値が疲労限度より低くなるように設計してあること(FEMでの応力推定が望ましい)
(鋼材の初期強度/発生応力≧5 が法定安全率:下記4項)
A 信頼できる素材を使用し、内部欠陥の検査をしていること(鋼材検査証明書を確認する)
B 溶接部の熱による残留応力を歪取り焼鈍で除去していること
*Cフックのアーム(荷を載せる部分)の先端がどこまで挿入されているかは、製品の外からは見えないため、アームの長さは荷の幅よりも長くして、先端が製品よりも外にはみ出す長さにしておく必要があります。
これが不足すると、特にスリットコイルの場合、下図のように先端のフープが落下して実際に死亡事故が発生しています。
      
*コイルヤードでCフックを使う場合、コイルの内径にCフックを挿入するためにコイル列間の間隔を1列おきにCフックのアームの長さ以上にあける必要があり、スペース効率が多少低下します。
     

1-2.電動リフター
*電動リフターは各種の作動を確認するセンサーを備えると信頼性が高い吊具の一つですが、下表にあるように自重が大きく、又高さもあるので、既存の建屋に簡単に採用できるとは限りません。
*コイルヤードではコイル列間の間隔は少なくて済むために、スペース効率が良くなります。
*クレーン及び建屋の強度の確認とリフターを操作するための配線工事が必要です。
*コンピューターによる在庫管理システムと組み合わせると、受け入れ・払い出し及び山繰りのオペガイドから更には無人化も可能です。又コイルをつかむ爪が折り畳める方式の方がコイルをつかむときスムーズになります。
 下図及び下表は日新工機の例です。又動作状況はこちら(東部重工)から。
   
      
定格荷重 15 ton 25 ton 35 ton
自重 約 1.5 ton 約 1.7 ton 約 2.2 ton
フレーム幅 900 mm 1,100 mm 1,300 mm
全高 約 2,450 mm 約2,450 mm 約 2,700 mm
最大アーム開き幅 1,650 mm 1,900 mm 2,100 mm
最小アーム閉じ幅 460 mm 460 mm 460 mm
アーム幅 120 mm 120 mm 150 mm
最大コイル幅 1,350 mm 1,650 mm 1,950 mm
標準コイル外径 2,000 mm 2,000 mm 2,000 mm
開閉速度 4 m/min(片側) 4 m/min(片側) 4 m/min(片側)
爪出入時間 1.3 s 1.3 s 2.0 s
旋回速度 1.5 R.P.M. 1.5 R.P.M. 1.0 R.P.M.
旋回角度 右回り200゜左回り110゜ 右回り200゜左回り110゜ 右回り200゜左回り110゜
1-3.その他の吊具
 滑車型ハッカーや天秤型ハッカー等がありますが、いずれもクレーン操作だけで段積した高所のコイルの両側からコイル内径にハッカーの腕を正確に挿入して、コイルを掴む必要があります。これにはかなり熟練したクレーン操作が必要になる上に、掴み損ねた場合のコイル落下による被害の重大性も考えると、避けた方が良いと思われます。
2.クレーン等安全規則抜粋(日本)
第214条(玉掛け用フツク等の安全係数)
 事業者は、クレーン、移動式クレーン又はデリックの玉掛用具であるフック又はシヤックルの安全係数については、
5 以上でなければ使用してはならない。
 前項の安全係数はフック又はシヤックルの切断荷重の値を、それぞれ当該フック又はシヤックルにかかる荷重の最大の値で除した値とする。

第215条(不適格なワイヤロープの使用禁止)
 事業者は、次の各号のいずれかに該当するワイヤロープをクレーン、移動式クレーン又はデリツクの玉掛用具として使用してはならない。  
1) ワイヤロープ一よりの間において素線(フイラ線を除く。以下本号において同じ)の数の 10% 以上の素線が切断しているもの
2) 直径の減少が公称径の 7% をこえるもの
3) キンクしたもの
4) 著しい形くずれ又は腐食があるもの

3.吊具の問題例
*上記1-1 項でも述べたように、Cフックは簡単に作れるため、強度計算もせずにつくられている場合が非常に多く大変危険です。15 ton 以上のコイルを吊る場合は下右写真のような断面がH型になったものでないと一般的には危険と考えるべきです。
*構造上危険なC-フックとして、下左2つの写真に示すようにクレーンの吊り位置とコイルの吊り位置が一致していないものがあります。このC-フックでコイルを吊ると、地切りの瞬間にコイルの重心とクレーンの吊り位置が垂直になろうとして、回転運動が起こり非常に危険です。
 
パイプでのフープ吊り
 右図のように数本のフープにパイプを通して、パイプの両側をハッカーで吊る作業は、パイプの肉厚が充分厚く強度が充分ないと、変形又は座屈してフープが落下する危険があり避けるべきです。
 強度を上げるためにパイプ肉厚を厚くすると人力での持ち運びは難しくなり、実用性は無いと思われます。
*リフターの疲労破壊の例
 右図に示すリフターに於いて、赤で示す部分が曲げ加工された丸鋼の溶接構造になっていたために、クレーンで吊る度に溶接部近辺に繰り返し曲げ応力を受けて疲労破壊に至った例があります。

 吊金具を右図赤色部のような構造にして不要な曲げ応力を避け、応力の集中を避ける事が必要です。
  @吊金具に不要な曲げモーメントが掛からぬような構造にすること
  A変形加工部の溶接は避けること
  B溶接部近辺に局所的に荷重が集中せぬような構造にすること

4.ワイヤーロープ及び繊維スリング (「玉掛」及び「ワイヤーロープ」参照)
 ワイヤーロープや繊維スリングは最大許容荷重を厳格に守る必要があります。更に磨耗やキンクと呼ばれる折れ曲がりや、素線切れ等による寿命管理を定期的にチェックしながら使用する必要があります。
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