梱包及び輸送・ハンドリング対策        HOME 技術資料室  技術用語
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 梱包は結露・水濡れ・当て疵などから製品を守るのが目的ですが、梱包だけでこれらを完璧に保護することは無理です。従って、ハンドリング時、輸送時、保管時には下記のような注意と改善が必要です。

1.母材コイルの荷役(船積み〜岸壁荷役〜輸送〜工場荷降ろし間での一貫した対策が必要)
  (1) コイルの荷役にはワイヤーは避けて、Cフックやトング或いはナイロンスリング等、コイルに疵を付けない吊具を使用する
(2) 木製等の置台(スキッド)の上に置き、軟着陸させる。石や金属の上に直接置かない。「コイルヤード」参照
(3) 海上輸送時の荒天にも、船内の荷が動かぬよう充分に固定する(ラッシング)。
(4) 船内では海水等が浸入しないよう、船倉の蓋を閉めると同時に、船内結露を防止するために換気孔の開閉を小まめに行う必要がある。

2.母材コイルの保管
  (1)屋内で雨にぬれない場所での保管
(2)結露しない環境管理 (湿度による窓の開閉管理、寒冷地での暖房)
(3)木製等の置台(スキッド)の上に置く「コイルヤード」参照

3.シート製品の荷姿

(1)スキッド
    クレーンでワイヤー掛けする場合でも、リフトトラックで搬送する場合でも、ワイヤーやリフトの爪を挿入するために製品の下に右図のようなスキッドを履かせる必要があります。
 木製の角材を釘で打ちつけて作ったスキッドが一般的です。
使った後のスキッドは持ち帰って釘を抜いて使える角材を再利用する場合もありますが、手間がかかります。同一サイズのリピート注文の場合は、顧客との話し合いで、鉄製の角パイプを製品サイズに合わせて溶接して作ったスキッドを通い箱として繰り返し使う場合もあります。
(2)梱包
 陸送の場合は防錆紙やビニールシート等によるスキッド付き梱包が一般的です。客がすぐ近くて、保管環境もよく、在庫期間が短い場合は、梱包紙を省略して裸のまま輸送できる場合もありますが、慎重な試験段階を踏みながら実施する必要があります。
 海上輸送が入るような場合には防錆紙やビニールシートでの内装の上に金属板による外装をするのが一般的です。
 
(3)反転梱包
 剪断ラインやブランキングラインでの表面が顧客での最終製品の裏面になる場合は、梱包後に右図のような反転装置で表裏を反転する必要があります。
 特にブランキングラインで自動車のドアー材のブランキングでは左右を同じブランク金型で打ち抜く場合が殆どなので、差厚めっき材はプレス前に左右で表裏を逆転させておく必要があります。
 この場合、反転後にも荷役できるような梱包荷姿にしておく必要があります
4.コイル製品の荷姿
 顧客の要請により、穴縦で出荷する場合と穴横で出荷する場合があります。幅狭のスリットコイルを複数個出荷する場合は、数個のコイルを一纏めに梱包して出荷する場合もあります。
 穴縦の場合はリフトカー又はワイヤー等で荷役するために木製のスキッドを下に履かせる必要があります。
    

尚、荷姿の呼び方は下記のように色々あります。
穴横:アイホリゾンタル (eye horizontal)
穴縦:アイアップ (eye up)、アイツースカイ (eye to sky)、寝かせコイル

穴縦出荷の場合は下図のような工程になります。

   
 スリットコイルは近隣の顧客へは通常裸のまま出荷される場合が一般的です。
 顧客から梱包紙をゲートル巻きするよう要請される場合には右写真のようなゲートル巻の設備が必要になります。
 
 下の写真にあるように床上で人がスリットコイルを転がしながら巻き付ける作業では、コイルの転倒による災害が多く発生しており、安全上避けるべきです。
 

5.結束バンド
 コイル製品もシート製品も結束用バンドが切断する事故は多く見られますが、バンドが切れる原因は荷役や輸送中のラフハンドリングで他の梱包に擦られたり、引っ掛けられたりといった異常動作で発生する場合がほとんどです。
 これらの異常動作は出荷〜輸送〜顧客で使用されるまでの何処で、どのように発生しているかを調べないと一般論では論じられません。
 従って、各会社は製品の結束バンドの材質・サイズ・本数に関しては、過去の事故例や顧客からの要請で個々に決めているのが実態です。一例を下表に示します。

<スリット材の梱包標準例>
製品材質 製品板厚 製品幅 結束(縦)バンド仕様
標準仕様 一般材 0.3~2.3 ≦500 白1本
2.5~5.6 青1本
>500 白2本以上
厚板材 一般材 >5.6 >200 青2本
特殊材 ハイテン材   青(本数は上記に同じ)
潤滑鋼板 白2本(横バンドも2本)
<結束バンドサイズ>
サイズ(mm)
0.6×19
0.9×32
0.7×19
TS≧70kgf/mm2  上表の標準は TS≧70 kgf/mm2 の結束バンドを使用した場合の例ですが、結束バンドの強度はバンドメーカーによって異なるので、現在使用中の結束バンドの強度の確認が必要です。
(結束バンドの仕様例)

 結束バンドに掛る力は結束機でバンドを締め付けた力で決まりますが、この結束機の締め付け力の設定値が使用する結束バンドの強度に見合った適切な設定になっているかを確認する必要があります。当然の事ながら締め付け力が結束バンドの強度に近くなるほど、荷役や輸送による外力により切断する危険が高くなります。

 厚手のコイルの場合、スリットコイル尾端のスプリングバック力は結束バンドの締め付け力とバランスしたところで多少浮いた位置で止まります。スリットコイル尾端は鋭角になっている上にバリが上向きの場合、結束バンドにはかなり過酷な状態で鋭角に当たるため、ここで切れやすくなります。この対策としては、下図に示すように、この尾端部に当板を挟んでから縦バンドを掛けるのが有効です。

 結束バンドが切れる対策としては、外周結束バンドを増やすよりも、下図に示すようにスリットコイル尾端部にアイバンド(横結束)を1〜2本集中掛けする方が有効です。但し、スリットコイル全体の巻き緩み防止として、外周結束バンドが1本以上は必要です。

 厚手材の場合、結束バンドが切れると尾端がスプリングバックで撥ねて災害につながる危険がありますが、特に加工ラインで結束バンドを切断する際に撥ねた尾端や結束バンドが身体に当たって怪我をする例が多く、注意が必要です。
 
       

6.鉄鋼メーカーの標準梱包
 鉄鋼メーカーの一般的な製品の梱包様式を下図に示します。国内用と輸出用で異なる様式になっています。
 コイルセンターの場合で需要家が比較的近距離の場合は、梱包を簡略化することができますが、輸送途中での雨天対策などを充分考慮する必要があります。
  
7.結束バンドの圧痕及び輸送ハンドリング疵対策
 輸出の場合の結束バンドは一般的に0.9mm×19mm 程度が使われていますが、特に製品の板厚が薄くなるほど、かなりコイルの奥まで結束バンド及び結合シール部の圧痕が入る危険があります。
 中でもコイル幅中央部の胴バンドによる圧痕は、かなりコイルの内部まで入る場合があり、コイルの置台、コイル同士の接触、輸送中のコイルの回転、(一部結束時の力)等により入るものと推定されます。従来、結束バンドの圧痕対策は日本の鉄鋼各社ともかなり苦労して以下のような対策を推進してきた経緯があります。
(1) 結束バンドの結合シール部による圧痕がコイルに付くため、最近では日本の鉄鋼各社とも結合シールをやめて結束バンドを直接スポット溶接して留めるタイプに変わってきました。 
(2) 梱包外周の結束は胴部のバンド圧痕を避けるために極力中央部の結束バンド掛けを減らし、両サイドのみにバンド掛けする場合が通例ですが、鉄鋼メーカー間で差があるようです。 
(3) アイバンド(コイル内径を通っているバンド)に関しても、段積みした場合にコイル間の接触部に当たらないような対策が必要です。
(右図でaの赤線位置は不可)
 これは鉄鋼メーカーに依頼して是非実行する必要があります。

 更にスキッド上及び下段コイルの上にはゴム又はフェルトの短冊を敷いて、押し疵を防ぐ必要があります。

 
(4) 厳格用途への対応
 顧客の品質に対する要請は年々厳しくなって来ており、特に自動車外板向けや冷蔵庫の扉用高級塗装鋼板などはこのバンド圧痕は厳しくチェックされます。 これらの厳格用途に対して一般的に行われている対策としては下記のようなものがあります。
 金属梱包の外周両エッジに 5mm 厚×100mm 幅程度のハードボードを捲きつけてバンド掛けし、コイルの中央部に重量が掛からないようすると、バンドマークのみならず、各種圧痕対策に効果がありますが、梱包費が高くつくので、一部の高級品に限定されます。
 
(5) 薄物の場合は胴バンドの代わりにコイルエンドを粘着テープや PP バンドで留めると効果があります。但し、鉄鋼メーカーでは胴バンドは殆ど最終ラインでの自動結束になっていますので、設備的に対応可能かどうかは具体的な検討と交渉が必要です。
(6) 外装表示に「こわれもの」又は「取扱注意」のステッカーを貼り、乱暴な荷役を警告することは既にかなり実施されているようですが、効果は余り期待できません。海外港湾での水切り後の岸壁荷役や港湾倉庫での保管に問題がある場合が多いようです。 
(7) 「段積み不可」や「回転不可」などの表示も考えられますが、船積みの場合、段積みは船積率を上げるために避けられず、又クレーンの掛からない場所には、ワイヤー等で引き摺ったり転がしたりして積み下ろしするため、ある程度これを見越した梱包が必要です。 
(8) 流通での対策
 各現地での水切り作業と港湾倉庫での保管状況、更に港から工場までの輸送を一度チェックする必要があります。特に発展途上国では、考えられないような乱暴な荷扱いをしている場合があり、作業及び荷役治具の改善を港湾会社又は輸送会社に根気良く働き掛けて色々な取扱疵が良くなった例が数多くあります。
 
(9) コイルセンターでの対策
 塗装鋼板や自動車外販などの外観厳格材は、原則段済み不可の対応をする必要があります。又、専用のラックを作りその棚に保管している会社もあります。
 コイルが床に接触することの無いよう、コイルの両端支持型のスキッドの上に置く必要があります。
 また止むを得ず段済みする場合には、フェルトや廃ベルトコンベヤー等のゴムを幅 100〜150mm×長さ 400〜500mm 程度に切った短冊を下段コイルの両エッジの上に敷いてから、2 段目のコイルを置くようにします。(3)参照
 いずれにせよ対象コイルの開梱時の状況を写真に記録しておいて、最終顧客でのトラブル発生時には状況を解析して、場合によっては鉄鋼メーカーも含めて対策を検討し、有効な対策を取る必要があります。
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