テーラードブランク (Tailored Blank)      HOME 技術資料室 技術用語
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 自動車の車体構造は、燃費の向上のために軽量化が求められると同時に、衝突時の安全性を確保するために強度が求められるという、相矛盾する機能を満たさなければならないため、自動車メーカーはテーラードブランクやハイドロフォームといった新しい技術を取り入れて対応しようとしています。

1.テーラードブランクとは
 強度の必要な部分は厚手のハイテンなどで強度を持たせ、耐食性が必要な部分は亜鉛めっき鋼板を使用するなど、車体の各部分毎に必要な特性に最適な鋼板を組み合わせて 1 枚のブランクに作ったものをテーラードブランクと云い、現在日本の自動車で最も広く使われているのがドアーインナーです。下図に示すように、左側のヒンジ(蝶番)のつく部分と右側のロックのつく部分は強度が必要なため板厚を厚くし、中央の部分は軽量化のために薄い鋼板を使っています。従って、1 枚のドアーインナーを作るのに 3 枚のブランクシートが必要となります。
→プレス→
 更に最近では直線同士の溶接のみならず、曲線同士の溶接も可能な設備が実現化されています。

2.品質管理のポイント
 従来、日本では専ら自動車メーカーが自社内でテーラードブランクを製造しており、たとえ溶接不良があっても自社内のプレス時に割れて排除されるために、テーラードブランクの製造設備は余り厳しい品質管理体制をとる前提になっていませんでした。

 他方欧米ではテーラードブランクは主として鋼板の素材供給側(鉄鋼メーカー又はコイルセンター)が製造・販売して来たという歴史的な違いがあり、品質管理体制は日本に比べて欧米の方がはるかに厳しくなっています。

 最近日本でも自動車メーカーがテーラードブランクを外注する動きが出始めました。自動車メーカー社内での加工と違い、外部の会社がテーラードブランク材を商品として製造・販売する場合は、品質保証の責任は当然厳しく要求され、溶接部の全数全長チェック体制をとって品質管理体制を強化する必要があります。品質で要求される重要ポイントは以下の点です。
 
1) ブランク相互間の隙間管理
 接合には光束が 1mmφ以下のレーザー光線を使い、鋼板そのものを溶かして溶接するために、各ブランク間の接合面は隙間なく密着していないと健全な接合ができず、プレスの時に剥離してしまいます。この隙間の管理がテーラードブランクの品質管理の最重要課題です。
 
<トーチと溶接部>    <接合部の溶け込み状態>     <隙間過大による溶接不良>
    
 通常のフライングシャー(走間剪断)ラインでは、平刃にレーキをつけて板幅方向に順次切断してゆくため、直線性及び直角度の精度が悪く、更にクリアランスもある程度必要なため、切断面のバリも大きくなるなどの要因から、接合する板間の隙間をゼロに近くすることは困難で、テーラードブランク素材としては通常使えません。
 
 隙間管理の対策としては、ブランキングラインあるいはストップカット式の剪断ライン等のように鋼板を止めた状態で、しかもゼロレーキに近い平刃による精密な切断加工が必要ですが、更に、

@ レーザー溶接前に接合部をロールで押しつぶして密着させ、接合部を検出しながらトーチの位置制御をする (SOUDRONIC 社方式)
A 接合面を溶接前に再度精密な寸法にレーザーカットする (MOZAICO 社方式)
B その他 (Thyssen 社方式)

などの対策が望まれます。

@の肉寄せロールを持つSoudronic社製の設備においてすら、溶接部位の直線度(<0.03〜0.05mm)やバリ高さ、切断面と破断面の比率(>75%)、フラットの管理が重要で、不良の90%がこれらの不良によるPorosityだそうです。
 
<SOUDRONIC 社方式>   <MOSAICO 社方式>
           
 
(SOUDRONIC 社の溶接機周辺と走間検査装置の例)

 欧米ではこれらの設備対策をとった上で溶接部の全数検査を行っていますが、それでもプレス工場での不良率が数%あるようです。
尚、曲線のテーラードブランクなどで、どうしても隙間管理に限界がある場合は、溶接芯線(フィラー)を使って隙間を埋める方法がとられます。

2) 溶接部の検査
 溶接部はプレス加工に耐えるだけの健全性が必要ですが、溶接線の外観形状と内部欠陥の検出が可能で、これらの情報から溶接部の健全性を判断する機器があり、全数検査して合否を判定する必要があります。
 更に右写真のように、溶接部をロット毎にエリクセンテストを行い、結果の実物を製品に添付して納入するよう義務付けられている場合もあります。
 

3.レーザー発信機
 レーザー発振機としては、CO2 と YAG (Yttrium Aluminum Garnet) があり、さらに YAG にはランプ励起と LD (Laser Diode) 励起の2種類があります。YAG はまだ歴史が浅く、世界的には CO2 が依然として多勢を占めているようです。

 YAG レーザーは光ファイバーで送れる為に使いやすく、特に曲線溶接に向いています。一方 CO2 は直進性があるために、向きを変えるには鏡による反射を使わねばならず、装置の構造が複雑になります。

いずれにせよ発信機による品質への影響は余り無いと考えてよいと思われます。

4.自動車への適用例 ==============================================
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