ストレッチャーストレイン (Stretcher-Strain)  HOME 技術資料室 技術用語
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 プレス加工前の状態では異常なく、鋼板を浅絞り加工した時に鋼板表面に現れる模様状に現れる線(リュダースラインとも呼ばれる)或いは肌荒れのことをストレッチャーストレーンと言い、鋼板の浅絞り加工に特有の現象です。(スプレー缶の底を見ると格子状に線が走っていることを良く見かけますが、これと同じ現象です)
 但し、この現象は時効性(時間の経過と共に性質が変化する性質)の鋼板にのみ発生するものであり、最近ではほとんどの鋼板が非時効性になっているため、めったに遭遇しなくなりました。
 ストレッチャーストレインが発生した部品については、見栄えが悪く、用途によっては商品価値を阻害しますので、顧客から嫌われます。しかし、ストレッチャーストレインが発生しても部品強度上の劣化は問題ありません。
 この現象は浅絞り加工に特有で、深絞りになると殆ど消えて判らなくなります。又、非時効性の鋼にはでません。
1.発生原因
 鋼板が加工により変形するのは、ミクロに見ると右図に示すように鉄の原子の並び方が順次ずれて移動することによって生じます。その過程で生じる結晶の断裂部(
部)では結晶格子に空間ができ、この部分を転位(ディスロケーション)といいます。
この転位が順次移動することで、変形が進みます。

 ところが時効性のある鋼板の場合、時効(Aging) によって鋼中に存在するフリーの(他の元素と結合していない)窒素[N]や炭素 [C] が鋼中を移動し、鋼板の格子欠陥部(転位) に入り込み、これを動きにくくします。これら元素の拘束力を超える力が加わった時点で、次々と転位が動き出して再び変形が進むため、右図に示すような降伏点伸びを示し、変形が不均一になり、結果として上の写真にあるようなストレッチャーストレーンを生じさせます。
2.対策
1) 非時効性鋼の指定
 抜本的対策は、非時効性の鋼板(窒素[N]、炭素[C]をアルミなどと結合させて鋼中を移動しないように固定したもの)を使えば問題は無いのですが、非時効性鋼板はエキストラ価格が高くなります。(因みに、自動車外板材は非時効性鋼板が使われています)

2) 製造後の保管〜納期管理の厳格対応
 時効は時間と共に進行するため、製造(スキンパス)からプレスするまでの短納期管理をする必要があります。特に夏場は気温が高く、時効が促進されやすいため、時間管理を強化する必要があります。スキンパス後、何日間がOKかは保管条件にもよりますので、一概には言えないところがありますが、安全をみて 1 ヶ月〜3 ヶ月程度が目安でしょう。 

3) ストレッチャーストレイン発生材の処置
 母材コイルの状態であれば、鉄鋼メーカーに返送し、再度スキンパス通板すれば復旧の可能性はあります。
また、コイルセンターでの緊急対応策としては、レベラー強圧下による再通板し、直ちに顧客加工を依頼することです。ただし、この効果はスキンパス程はありませんので、事前に顧客トライし効果を確認してから取り組むようにします。
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