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職場での労働災害を防ぐには、「職場風土の改善」と、「設備・作業面の改善」との両面からの対策が必要です。

1.職場風土の改善
 安全のみならず、品質・能率面など工場としてのレベルアップには、組織のトップから末端のワーカーまでの考えを同じ方向に向けることが重要です。それには風土改革のリーダーシップをとれるリーダーを育て、風土の改善と職場一人一人のレベルを向上させることで、長期的な向上を図る必要があります。
 そのための方法としてまず初めは 5S の一部簡単なテーマから入ると始めやすいといわれています。QCサークル活動や自主管理活動なども、同じように風土の改善の道具として使えます。
 以下は職場における安全管理の一般的な進め方の一例です。

1)推進体制
@) 安全推進体制と責任者を明確にし、図にして職場に公示する(日本では法的義務あり)
@経営トップ・安全責任者・安全委員会の指名
A安全対策推進の具体的計画の作成とその実行(トップのフォローが求められます)
 
A) 再発防止機能
@過去の災害事故の状況を全員に知らせる
A過去の災害の原因調査及びその対策の実施状況のフォローとその記録
 
B) 社員教育・新人教育
@5S 運動の展開(簡単なものから始める)
A過去の自社災害例からの教育
B他社での災害例の水平展開
CKYT (危険予知訓練)
 
C) 現場チェックの制度化
@安全推進体制メンバーによる定期的安全パトロール
A経営トップによる定期的安全点検
 

2)上記体制の推進とその実施状況のフォロー
 *自己監査:自部門による定期的監査
 *外部監査:社外者又は自社の他部門による定期的監査(部外者の新鮮な目が必要)
 *災害発生とその対策状況を図示し、皆に分からせるよう表示する必要があります。
      
 
3)参考資料
ハインリッヒの法則」大きな災害が発生する前には小さな災害が多発しているのが通例であり、小さな災害の段階で対策を打っておく必要があります。
割れ窓理論」「学校改革1000日」「トイレ磨きは心磨き」 日本の安全関連法規 労働災害発生率の定義 「国際安全衛生センター


2.設備・作業面の改善
 設備に人が直接触れさせないようにすることが究極の安全対策ですが、完璧を目指すと投資額が大きくなりすぎるので、一般的には危険度の高いと思われる箇所から必要な対策を打って少なくとも重大災害だけは防ぐ方法をとります。
 また、一旦災害が発生した場合は、当該職場で実際に作業する人達を主体に再発防止の方案を検討させ、設備・作業の両面から対策を打ことが非常に大切で、そのまま放置することは絶対に避けねばなりません。他社の類似現場での災害発生例を元に、自社でも対策を打つことも効果的です。設備により危険箇所は異なりますが、危険な箇所の一般的な例を示すと下記の通りです。

<例-1>ピンチロール等への巻き込まれ対策・・・重度災害の頻度が高い
 ピンチロール等の回転体に手や腕を引き込まれて指や腕を切断したり、さらには身体ごと巻き込まれて死亡した例等、頻度が多い上に重症に繋がる危険が高いので万全の対策が必要です。下図のような危険を喚起する表示も必須です。
(ピンチロールの例)
 
(対策1)手が入らぬようケージで囲い、作業用の扉をつける
(対策2)ロールの手入れはロールを停止又は寸動にし、出側から「棒ずり」で行う
(対策3)ステッカーを貼って危険を視覚に訴える

(カッタースタンドの例)

<例-2>回転体・駆動ベルト等
 トリム屑ワインダーや木工用丸刃、駆動ベルト等の回転体に巻き込まれると、簡単に指や手を切断されます。必ず保護カバーで囲って、人体が触れないようにする必要があります。



       トリム屑ワインダーの例              木工用丸刃の例
 

<例-3>開口部の蓋と危険域の安全柵 (「安全柵」参照)
1)                 あらゆる開口部には蓋をし、危険域には安全柵が必要です。右図はアメリカの安全規則(アメリカ OSHA 労働安全衛生規則)の例です。(あらゆる方向に対して 91kgf の荷重に耐えること)
2) アンコイラーやリコイラーのコイルカーの昇降用のシリンダーが縦型の場合、深いピットを必要としますが、この場合は設計段階からコイルカーの前後にスライディングプレート又はシャッター式のピットカバーをつけて落下防止の安全対策を取る必要があります。もしくはピットの無い床上走行式のコイルカーも欧米では広く使われており、比較検討する必要があります。設置後にピットカバーを追加設置するのは技術的に非常に困難です。
      ⇒ 
                       (対策1)ピットカバー      (対策2)フロアータイプ

<例-4>インラインでの作業
 ラインが動いている間、ラインの作動範囲(前後左右の側面)に近付くと危険です。近付く必要がある場合は、ラインを止めることが前提で、ラインを再スタートさせる場合は、合図のベルを鳴らしてからスタートさせる必要があります。
1) 通板中の鋼板の上下やリコイラー後面またはアンコイラー前面などのライン内に立つことは、鋼板の尾端や破断時に危険です。裏面観察はループのような縦パスの場所にガードを付けた専用のピットを設置する必要があります。
   
2) ループピットカバーの上やガイドエプロンの上や後面で作業する場合は、これらが絶対に作動しないよう、電気的なインターロックのみでなく、機械的な強固なストッパーを設置する必要があります。
3) コンベヤー上で作業するとき等も、ラインが動き出さぬよう確実に運転停止状態を保持できる対策が必要です。
4) パイラーでのトラブルや段取り時、パイラーの中に入る時は、ラインを確実に止めて後続の板が入ってこない状態にすることが必須です。 


<例-5>安全通路
 安全通路及び作業通路は明確に線又は面で色分けしておく必要があります。日本では工場の安全通路の寸法について特に定めが無いようで、労働安全衛生法規則で定められているのは、工場内の機械間の通路を 80cm以上設けるということ(則543条)、高さ 1.8m内に障害物を置かないということが規定されているだけです。(542条)



<例-6>原コイルヤード及び製品ヤード (「コイルヤード」「コイルスキッドの強度」参照)
1) 原コイル置場
 大重量のコイルが山積みされた原コイルヤードでは、クレーンの操作ミスや地震などの外力は無論、コイルの自重そのものも荷崩れを起こす回転力として働き、大きな破壊力になります。コイルの山崩れを防止するためには、個々のコイルを固定するためのしっかりしたコイル置台(スキッド)と、コイル置場の周囲に強固なコイルの転出防止壁(エンドストッパー)を設置する必要があります。

 
2) 吊具(「吊具の管理」参照)
 吊具は重量物を繰り返し運搬する道具であるため、用途に応じて最適なものを選ぶと同時に、金属疲労や誤動作に対する設計・製作面で信頼性の高いものを選ぶ必要があります。
 特に重量の大きいコイルの吊具は正しく設計・製作が行われていないと金属疲労で折損する場合があります。多少高価でも確実な強度設計と正しく製造されたものを購入・使用する必要があります。(「C-フックの疲労破壊」参照)
Cフックのアーム(荷を載せる部分)の先端がどこまで挿入されているかは、製品の外からは見えないため、アームの長さは荷の幅よりも長くして、先端が製品よりも外にはみ出す長さにしておく必要があります。
これが不足すると、特にスリットコイルの場合、下図のように先端のフープが落下して実際に死亡事故が発生しています。
     
3) 穴横スリットコイル置場
 穴横の幅狭スリットコイルは立てておくと将棋倒しになる危険があります。差し込み式のガイドポールを立てる方式の専用のスキッド(下図右端)を設置する必要があります。
 斜めに立てかけて置く置き方はスリットコイルの幅と外径によって傾けるべき最小角度が異なる上に、中間のコイルを取り出すときに危険です。(「スリットコイルの起き上がり」参照)

   
4)スリットコイルの紙巻器
 下図左に示すように、人力で紙巻器に挿入するタイプと、下右図に示すようにホイストで吊り込むタイプがあります。人力のタイプでは人がスリットコイルを転がす際にコイルが転倒して怪我をする事故が多く危険です。
      
 

5) シート及び穴縦スリットコイル置場
 シートや穴縦スリットコイルも高く積み上げると、荷崩れの原因になり危険です。一般的には人の手の届く高さ程度に制限するのが無難です。

<例-7>玉掛 (「玉掛」参照)
1) ワイヤーロープやナイロンスリングは最大吊荷重の厳守と寿命の管理が重要です。 チェーンは強度的には信頼性が高いといえます。詳細は「玉掛」「ワイヤーロープ」を参照してください。 
2) 少量のシートを荷役する場合、ワイヤーが滑って片寄りしたりして運搬物を落下させる危険があるため、スキッドに乗せて吊る必要があります。

<例-8>クレーン及び搬送用車両
1) クレーン及びフォークリフト/ラムトラックなどのリフトトラックの運転とその玉掛は免許を持った有資格者のみ行うことができます。資格者の登録と管理を確実に行う必要があります。
2) クレーン及びリフトトラックは定期的な点検整備が必要で、法定点検も受けなければなりません。
3) クレーンは万が一の落下事故を想定して、安全通路上及び人がいる頭上を通過することは避けることが必要です。 
4) リフトトラックは決められた通路・場所内で運転すること、運転中、特に後進の場合にはパトライトや警報音によるアラームで周囲の人に注意を喚起する必要があります。

<例-9>輸送中の積荷の留め方不良
 鉄鋼製品は見た感覚よりも重量が大きいため、急発進・急停止・急カーブ時に荷崩れを起こして人災を起こす危険があります。製品は固定されたスキッドの上においてチェーンでゆるみなく強固に固定することが必須です。
 一旦荷崩れを起こした製品は凶器となり人災や物損を引き起こします。急ブレーキを掛けたために、コイルが運転席に転がり込んで、運転者が死亡したケースや、急カーブを切ったために市街地の交差点でトラックが横転して切板を散乱させたケースなど過去には色々な事故があります。


<例-10>高所作業時の命綱
 高所での作業時には落下防止のために必ず命綱をつけることが義務付けられています。クレーンからの落下で死亡した例もあります。
 命綱が掛けられない高所での作業は代替方法をとる必要があります。
<例-11>危険表示
危険箇所には、下図のような危険を喚起するような表示をしておく必要があります。
  

<例-12>安全防具
 ヘルメット、手袋(鉄板を直接触る場合は皮製)、安全靴は基本的な装備で、職場環境に応じて更に、防塵眼鏡、耳栓などが必要です。
 又、火災対策として消火器及び消火栓・ホースの設置が必要です。

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